
IBMとOracleが共同で発表した最新レポート「人事部門こそが企業における生成AI活用の要」が公開されています。
このレポートでは、CEOの75%が「競争優位性は生成AIの導入にかかっている」と回答する一方で、60%の企業が「生成AIが従業員に与える影響を評価する仕組みすら持っていない」という現実。この危険なギャップを埋められるのは、人事部門だと紹介されています。
特に注目すべきは、「生成AIを適切に管理している企業は、従業員の体験への投資リターンが46%高い」という調査結果です。これは、人事部門が単なる「AI導入の管理者」ではなく、「企業全体の生成AI戦略の設計者」となることで、組織に大きな価値をもたらせることを示しています。
でも、「生成AIで人事を変革しよう!」と言われても、具体的に何から始めればいいのか悩んでしまうと思います。技術的な知識も必要そうだし、従業員の不安にも対処しなければならない。そもそも経営陣をどう巻き込めばいいのか――そんな疑問を持つ人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、このレポートが提唱する「人事部門が生成AI文化を醸成するための10の行動」の中から、特に実践しやすく効果が期待できるアクションを厳選してご紹介します。明日からでも始められる具体的なステップとともに、なぜ今、人事部門が生成AI推進の中心的役割を担うべきなのかを探っていきましょう。
人事部門が今すぐ始められる生成AI推進アクション3選
従業員の不安に寄り添う「AI対話セッション」を開催する
生成AIと聞いて、真っ先に思い浮かぶのは「自分の仕事がなくなるのでは?」という不安かもしれません。実際、IBMの調査では従業員の54%が「新しいテクノロジーにより自分の仕事は時代遅れなものになるのではないか」と心配していることが明らかになっています。
この不安を放置すると、優秀な人材の離職や、AI導入への抵抗感につながりかねません。でも逆に言えば、この不安にしっかり向き合うことで、従業員を強力な「AI推進の味方」に変えることができます。
具体的なアクション
オープンな対話の場を設ける:月1回の「AIについて何でも聞ける会」を開催。技術的な質問から「私の仕事はどうなるの?」という素朴な疑問まで、すべて受け止める
成功事例を共有する:社内で生成AIを使って業務効率化に成功した従業員の体験談を紹介。「AIは仕事を奪うものではなく、面倒な作業から解放してくれるパートナー」というメッセージを伝える
デジタルチャンネルも活用:Slackなどで「#AI活用相談室」のようなチャンネルを作り、いつでも質問や不安を共有できる環境を整える
ポイントは、「AIの専門家」として上から教えるのではなく、「一緒に学んでいく仲間」として寄り添うことです。人事部門自身も「実は私たちも手探りなんです」と正直に伝えることで、信頼関係をより一層深められる可能性があります。
管理職を「AI活用のロールモデル」に育てる
従業員が生成AIを受け入れるかどうかは、直属の上司の態度に大きく左右されます。「うちの部署ではAIなんて使わない」という管理職がいれば、その部下たちもAIを避けるようになってしまいます。
しかし、管理職の方々も内心では「AIって難しそう」「部下に聞かれても答えられない」と不安を抱えているかもしれません。だからこそ、管理職をサポートし、彼らが自信を持ってAI活用を推進できる環境を作ることが重要なんです。
具体的なアクション:
管理職向けAI体験ワークショップ:ChatGPTを使った議事録作成や、AIによる1on1の準備など、すぐに使える実践的なスキルを2時間程度で習得
失敗談共有会の実施:「AIに頼りすぎて失敗した」「プロンプトがうまく書けなかった」など、管理職同士で失敗談を共有。心理的安全性を確保しながら学び合う
AI活用事例集の作成:各部署の管理職がどのようにAIを活用しているか、具体的な事例を集めて共有。「営業部のAさんは提案書作成時間を50%削減」など、数字で効果を示す
管理職がAIを使いこなし、その便利さを実感すれば、自然と部下にも「君もこれ使ってみたら?」と勧めるようになります。そのような広がりこそが、組織全体のAI文化醸成につながります。
スキルの再定義で「人間らしさ」の価値を見える化する
興味深いことに、IBMの調査では「最も重要なスキル」のランキングでSTEMスキルが2016年の1位から2023年には12位まで急落しています。代わりに上位に来たのは、時間管理能力、チームワーク、コミュニケーション能力など、まさに「人間らしい」スキルでした。
これは、技術的なスキルがもはや当たり前になり、AIが得意とする領域は機械に任せ、人間にしかできない価値創造に注目が集まっていることを示しています。人事部門は、この変化を従業員に伝え、彼らの持つ「人間らしさ」の価値を再認識させる重要な役割を担っています。
具体的なアクション:
新しいスキルマップの作成:従来の「技術スキル重視」から「ヒューマンスキル重視」へ評価軸をシフト。創造性、共感力、批判的思考力などを可視化
AIとの協働スキル研修:「AIへの適切な指示の出し方」「AIの出力を批判的に検証する方法」など、AIと上手に協働するためのスキルを習得
キャリアパスの再設計:AIによって変化する職務内容を予測し、従業員が「AIに置き換えられない価値」を身につけられるようなキャリア開発プログラムを提供
単に「AIの時代だからプログラミングを学ぼう」ではなく、「AIの時代だからこそ、人間にしかできないことを磨こう」というメッセージを発信することで、従業員の不安を希望に変えることができるはずです。
人事部門が「司令塔」になることの本当の意味
レポートは、人事部門を単なる「AI導入の管理者」ではなく、組織全体の「AI文化の醸成者」として位置づけています。これは、人事部門にとって大きなチャンスでもあり、責任でもあります。
なぜなら、人事部門は組織の中で唯一、すべての部署・すべての従業員と接点を持つ部門だからです。この特別な立場を活かして、部署間の壁を越えたAI活用の橋渡し役となり、組織全体に一貫したAI戦略を浸透させていく必要があります。
生成AIの進化は、もう止めることはできません。でも、その変化を恐れるのではなく、従業員一人ひとりが自信を持ってAIを活用できるよう支援することはできます。技術的なサポートから心理的なケアまで、従業員のAI活用を多面的に支える――それが、これからの人事部門に求められる新しい役割なのかもしれません。
この記事を書いた人

#AI活用人事 八百(やお)
2020年に新卒で株式会社フィードフォースにデータサイエンティストとして入社。自社プロダクトの成果改善のための分析業務に従事。その後、生成AIを活用した新規事業開発に携わるようになり、現在はAIを活用した求人原稿作成サービス「求人IQ」の開発を実施している。












